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「楽劇の祭典」の活動

楽劇の祭典」二十年の歩み  ―伝統と創造の統合の試み

 

 日本の三大舞台芸術である能・文楽・歌舞伎を中心とする「楽劇の祭典」(主催、関西楽劇フェスティバル協議会・本部大阪市)の活動が開始されのは、世紀が改まった2001年8月のことでした。日本の文化伝統を踏まえつつ、その現代化、国際化を目指すこと、同時にそのような文化・芸術活動を通して、社会の活力を高めていくことが活動の趣旨でした。

 初代会長は、京都市にある国立機関である国際日本文化研究センターの所長で文化庁長官も務められた故河合隼雄氏であり、河合氏が文化庁長官になられてからは、宗教学者である山折哲雄氏が長く会長を務められました。現在は笠谷和比古(国際日本文化研究センター名誉教授)と河内厚郎(兵庫県立芸術文化センター特別参与、阪急文化財団理事)の両名が代表幹事として運営しています。

幸いに多くの関係者・団体の御好意に支えられて、その二十周年を迎えることができました。毎年の「楽劇の祭典」では既存団体の公演に名義上の参加をしてもらうもの、あるいは各種団体と協議をして当方の希望に沿って制作してもらう公演というのもありますが、協議会が自ら制作する公演も毎回、少なくとも一つは設けるようにしています(各年度の公演の詳細については「楽劇の祭典」のホームページ www.gakugeki.org に掲載)。

 その代表的なものの一つは、2003年度の「復元『阿国歌舞伎』」。同年は歌舞伎発祥四百年ということで、当協議会では京都鴨川の四条河原に舞台をしつらえ、四百年前の阿国歌舞伎の復元上演を試みました。

 それは歌舞伎という新しい舞台芸術が生成してくる状況の再現であり、当日、四条河原に参集された5000人を越す観客の人々とともに、芸術創造をめぐる体験共有の機会を設けられたことは幸いでした。

 第二として2005年度特別公演としてNHK大阪ホールで開催した「楽劇『豊後掾Bungonojo』」。常磐津、清元など豊後系浄瑠璃の源をなす豊後節と、その創始者・宮古路豊後掾を主題とする作品です。この作品でも、心中を主題としつつ官能的な節回しをもった新しい豊後浄瑠璃が登場し、人々に熱狂的に迎えられていく状況を劇中劇(江戸中村座における上演。復曲、故人間国宝・常磐津一巴太夫)の形で表現しました。

 三つ目には、「楽劇の祭典」十周年記念公演として、兵庫県立芸術文化センター・大ホールで上演した「楽劇『保元物語』」。この公演では、梅若玄祥(現、桜雪)氏に主演とともに演出面から登場人物の所作と舞と装束とを担当していただきました。そしてまたドイツ人演出家の故マンフレート・フーブリヒトManfred Hubricht氏にも演出に参画していただきました。同氏はワーグナー楽劇のメッカであるドイツ・バイロイト祝祭歌劇場をはじめとして欧米各地の劇場において数多くのオペラや演劇の演出を手がけてこられました。その特有の照明技法をもって、専ら舞台構成の面を中心に総合的な演出をお願いしました。人物と事象の双方にわたって内面的な彫琢に意を用いるワーグナー楽劇の照明法と舞台造りとは、能楽の静的で重厚な本性と誠によい調和を示しており、能楽的所作と舞台構成の妙味を一段と際立たせる効果を発揮していました。

 また、この『保元物語』では音楽面においても、伝統的な能の音楽と西洋管弦楽との協奏を試みました。この部面では作曲家武内基朗(たけのうちもとあき)氏の貢献が大でした。音律、音階そしてリズムなどの点において本質的に相容れない能楽の楽曲と、西洋管弦楽曲とをいかに調和・統合するか、この難問をめぐり数ヶ年にわたる実験的研究を重ね、その成果が同作品には反映されています。

 『保元物語』が日本の古典をベースとしつつ、その現代化、国際化を目指すとする当協議会の活動理念をよく表現したものであったのに対して、今回の楽劇『ガラシャ』はこれまでの経験を踏まえて、日本の文化伝統に立脚したオペラの制作を試みたものです。

物語は、明智光秀の娘にして細川忠興の妻となり、のち洗礼名をガラシャGratiaとするキリスト教徒として生き、関ヶ原合戦の推移の中で壮絶な最期を遂げた細川ガラシャの波乱の生涯を描いたものです。しかしこれはあくまでも自由な空想を交えた物語として構成されており、史実の再現ドラマではないことをお断りしておきます。

 本作品は、ベースにはオペラの様式を用いながら、能・狂言の手法をも取り入れつつ、日本の伝統芸能に特徴的な「語り(平家語り、浄瑠璃語り)」の音楽的要素を重視した構成となっています。そしてさらに演出面でも、能の様式を基本とする舞台構成をとり、それにオペラ照明を重視する形を取っています。

「楽劇の祭典」の活動も二十年を迎えました。偏に皆様方の御理解があってのことです。今後ともに実験的精神を堅持しつつ、皆様方の御支持と御支援を踏まえつつ、伝統と創造との統合の試みに向かって邁進していきたく思っています。

  詳細は「楽劇の祭典」のホームページwww.gakugeki.org を御参照ください。

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